第22回 節税について考える(繰り延べ保険編)

こんにちは、芹澤です。

前回はキャッシュの大切さについて書きました。

今回はその続きとして、「節税」をテーマに書いていきます。

節税の手段はいくつかありますが、今回は経営者向けに提案されることが多い繰り延べ保険に絞って考えてみます。

結論から言います。

繰り延べ保険による節税は、基本的には意味がないと思っています。

ただ、例外もあります。

そのあたりを正直に書いていきます。

なお、私は税理士でも保険の専門家でもありません。

あくまで一経営者の個人的な考えとして読んでいただけると幸いです。

というか間違ってたらぜひ教えて欲しいです。


そもそも繰り延べ保険とは何か

まず前提を整理します。

繰り延べ保険とは、法人が生命保険に加入し、保険料を経費(損金)として計上することで、 今期の利益を圧縮し、税負担を将来に先送りする手法のことです。

「節税保険」と呼ばれることもあります。

経営者の方なら、保険会社や保険代理店から一度はこういった提案を受けたことがあるのではないでしょうか。

「今期の利益が出ていますね。保険で節税しませんか?」

私も受けました。

保険としての中身はどうなっているのか

代表的な商品として、長期平準定期保険逓増定期保険の2種類があります。

どちらも基本的な保障内容は同じで、被保険者(主に経営者・役員)が死亡または高度障害になった場合に、法人が死亡保険金を受け取るという仕組みです。

満期保険金はありません。いわゆる「掛け捨て」ベースの定期保険です。

2つの違いを簡単に言うと、

長期平準定期保険は、保険期間中ずっと死亡保障額が一定です。保険期間が99歳〜100歳までと非常に長く、解約返戻金のピークに達するまでじっくり時間をかけるタイプです。経営者の退職時期が流動的な中小企業に向いていると言われます。

逓増定期保険は、時間の経過とともに死亡保障額が最大5倍まで増えていくタイプです。その分、解約返戻金のピークが早く訪れ(5〜10年程度)、短期間での退職金準備に使われることが多いです。

つまり保障の建前としては、「経営者に万が一のことがあったとき、会社の損失を補填する」という目的があります。

ただ、実態として多くのケースで節税・退職金準備の手段として使われているのが現状です。

保障が必要だから入るのか、節税のために入るのか。

この入口の動機がどちらなのかによって、この保険の評価は大きく変わると思っています。


そもそも保険は、得をするゲームではない

ここで一度、保険というものの本質に立ち返って考えてみます。

これは繰り延べ保険に限らず、保険全般に言える話です。

結論から言うと、保険は確率論的に見れば、加入者が損をするようにできています。

なぜかというと、保険の仕組みを分解するとシンプルに説明できます。

加入者が払う保険料は、大きく2つに分かれます。

1つ目は、万が一のときに保険金として支払われる原資となる「純保険料」。

2つ目は、保険会社の運営コスト・人件費・利益などに充てられる「付加保険料」です。

つまり、加入者が払った保険料のすべてが保険金として還元されるわけではありません。

運営コストと利益の分だけ、必ず目減りします。

これは宝くじと同じ構造です。

全員が払ったお金の合計より、全員に戻ってくるお金の合計の方が少ない。

数学的に言えば、保険加入者の期待値はマイナスです。

では、なぜ人は保険に入るのか。

それは「損得」ではなく、「万が一のリスクを金銭的にカバーするため」です。

自分一人では到底負えない規模のリスクを、みんなで少しずつ負担し合う。

それが保険の本来の意義です。

だからこそ、保険は「自分では対処できない規模のリスクに備えるもの」であって、 「得をするための金融商品」ではありません。

この大前提を理解した上で、繰り延べ保険の話に戻ります。

節税や退職金準備という「得をする目的」で保険を使おうとすること自体、 保険の本質からズレているのではないか、と私は思っています。


2019年の税制改正で、ゲームが変わった

かつては、この手法はそれなりに有効でした。

返戻率の高い保険でも、保険料の全額や半額を損金に算入できた時代があったからです。

その手軽さから、節税保険は経営者の間で急速に広まっていきました。

バレンタインショックという事件があった

しかし、2019年2月14日、業界全体が震える出来事が起きました。

その前日の2月13日、国税庁が生保41社の担当者を緊急招集し、節税保険の税務上の取り扱いを抜本的に見直すことを突然通告したのです。

翌2月14日、各社は次々と節税保険の販売停止に動きました。

業界ではこの出来事を**「バレンタインショック」**と呼んでいます。

販売停止になったのは、保険料の全額または半額以上を損金算入できる設計の定期保険です。

解約返戻率も高く節税効果も大きいとして人気を集めていたこれらの商品が、一夜にして売れなくなりました。

そもそもなぜここまで過熱したのか。

2000年代半ばから、保険会社はルールの隙間を突くような商品を次々と開発し、「節税できます」という売り文句で経営者に販売し続けました。

国税庁・金融庁との”いたちごっこ”が長年続いた末の、強制終了だったわけです。

「節税を強調した販売は、リスクに備えるという保険本来の目的から逸脱している」

これが行政側の言い分です。

私はこの指摘は正しいと思っています。

改正後のルール

バレンタインショックを受け、2019年7月に税制ルールが大幅に厳格化されました。

改正後は、最高解約返戻率に応じて、損金に算入できる割合が制限されています。

簡単に言うと、返戻率が高い保険ほど、今すぐ経費にできる部分が少なくなりました。

例えば、返戻率90%の保険に加入した場合、 契約から10年間は保険料のうちわずか約19%しか損金算入できません。

改正前は全額または50%が損金算入できていたのと比べると、 節税効果は激減しています。

さらに2024年には、国税庁が一部の契約形態に対して注意喚起を行うなど、 規制の目は年々厳しくなっています。

節税保険は完全に消えたわけではありません。

ただ、かつての「おいしい商品」はもはや存在しないと思った方がいいと思っています。


なぜ「基本的に意味がない」と思うのか

結局は「繰り延べ」にすぎない

一番の理由はここです。

繰り延べ保険は、あくまで税金を「先送り」しているだけです。

今期の税負担を減らしても、保険を解約したときに解約返戻金が益金として計上され、 そのタイミングで税金がかかります。

永久に税金がゼロになるわけではありません。

「節税」という言葉を使いますが、正確には「課税の繰り延べ」です。

前回の記事でも書きましたが、私はキャッシュファーストの考え方をしています。

税金を100減らすために、保険料を300払う。

手元のキャッシュは確実に減ります。

繰り延べている間、そのキャッシュは手元から出ていっているのです。

出口が難しい

解約するタイミングで大きな益金が発生します。

その益金を相殺するために、役員退職金などを活用するスキームがよく使われますが、 これがまた計画通りにいかないことが多い。

退職のタイミング、金額、税務上の処理。

考えることが多い割に、得られるメリットが限定的だと感じています。

お金を使うタイミングを、保険会社に握られる

これは私が繰り延べ保険に対して感じる、最も大きな違和感の一つです。

繰り延べ保険は、解約返戻率が最も高くなるタイミングが保険の種類ごとに決まっています。

逓増定期保険なら契約から5〜10年前後、長期平準定期保険ならさらに長期にわたります。

そのピークを外して早期に解約すると、返戻率が大きく下がります。

最悪の場合、払った保険料の半分以下しか戻ってこないケースもあります。

つまり、自分が必要なタイミングでお金を動かすことができない。

「今すぐキャッシュが必要だ」という場面が来ても、保険を解約すれば大きく目減りする。

結果として、保険のスケジュールに自分の経営判断を合わせざるを得なくなる。

これは、キャッシュの自由度という観点から見ると、非常に大きなデメリットだと思っています。

この考え方は、基本的に正しいと思っています。

調べてみると、法人保険の専門家も「解約のタイミングが出口戦略の最大の課題」と口を揃えています。

返戻率のピークに合わせて、役員退職金や大型設備投資などの「支出イベント」を計画的に設定しなければならない。

逆に言えば、そのイベントが計画通りに来なければ、損をするタイミングで解約するか、必要のない時期まで保険を続けるかという二択を迫られます。

お金の使い道とタイミングを、自分ではなく保険のスケジュールが決めてしまう。

これが私には受け入れがたいのです。

前回も書いた通り、キャッシュに余裕がある経営者は中長期で考えられます。

逆に言えば、いざというときに自由に使えるキャッシュを持っていることが、経営の強さの源泉です。

繰り延べ保険に資金を縛り付けることは、その自由を自ら手放すことだと感じています。

保険会社にとって都合がいい商品

少し辛口に言うと、繰り延べ保険は保険会社・保険代理店にとって非常に旨みのある商品です。

高額な保険料が長期にわたって入ってくるからです。

提案してくれる側の利益と、自分たちの利益が必ずしも一致していない、 という視点は持っておいた方がいいと思います。

繰り延べ保険の本質は「お金を貸しているだけ」

これが私の一番の結論かもしれません。

繰り延べ保険の構造を極めてシンプルに言い換えると、

「自分のお金を、少し手数料を払って保険会社に預けているだけ」

だと思っています。

解約返戻金は100%戻ってくるわけではありません。

返戻率が90%なら、払った保険料の10%は戻ってきません。

その10%分が、言わば保険会社への「手数料」です。

つまり、自分のお金を保険会社に渡して、少し目減りした状態で返してもらっている。

加えて、その間ずっと手元のキャッシュは減り続けている。

「節税のために保険に入る」という行為の実態は、 手数料を払いながら、自分のお金を保険会社に一時的に預ける行為です。

保険本来の目的である「万が一のリスクに備える」という機能とは、 完全に別の話になっています。

こう整理すると、繰り延べ保険を節税目的で活用することへの違和感が、 より鮮明になると思います。


それでも意味がある場合もある

ここまで否定的なことを書きましたが、例外はあります。

創業初年度・利益が突発的に膨らんだとき

事業が急成長したり、想定外の利益が出た年があったりする場合、 一時的に大きな税負担が生じることがあります。

そういったタイミングで、短期的な利益の平準化として活用するのは一定の合理性があると思います。

「今期だけ突発的に利益が出た。来期以降は落ち着く予定。」

そういうケースでは、繰り延べ効果にも意味があります。

利益の読み違いが発覚したとき

経営していると、期末になって「思ったより利益が出てしまった」という事態が起こることがあります。

そのタイミングで駆け込み的に活用するケースも、ゼロとは言いません。

ただしこれも、税務調査のリスクや、その後のキャッシュアウトを十分に理解した上での話です。


まとめ

繰り延べ保険を使った節税について、私の考えをまとめます。

  • そもそも保険は確率論的に加入者の期待値がマイナスであり、「得をする商品」ではない
  • 基本的には「課税の繰り延べ」にすぎず、恒久的な節税ではない
  • 2019年の税制改正以降、節税効果はさらに限定的になった
  • 実態は「手数料を払いながら自分のお金を保険会社に預けているだけ」
  • 解約タイミングを保険会社のスケジュールに握られ、キャッシュの自由度が失われる
  • キャッシュファーストで考えると、保険料のキャッシュアウトはむしろマイナス
  • 突発的な利益の平準化など、限られたケースでは一定の意味がある

繰り返しになりますが、私は専門家ではありません。

最終的な判断は、信頼できる税理士に相談することをおすすめします。

ただ、「節税になります」という言葉を鵜呑みにせず、 本当にキャッシュが残るのかという視点で考えることは大切だと思っています。

節税は手段であって、目的ではない。

その大前提を忘れずに、お金と向き合っていきたいと思います。

おまけ

旅行などでレンタカーを借りるとき、保険に入るか迷うことがあります。

基本的には上記の考えから入りません。

そもそも最低限の保険がすでにプランに組み込まれていることがほとんどです。

しかし、複数人で運転するときは入ることが多いです。

なにかあったとき、後でもめたくないですし、いちいち説明をするのが面倒になので。

別件ですが、今度、会社の保険の見直しをするので、そこでも一記事書けたら嬉しいなって思います。

予想ですが、社員旅行1回分くらいは、無駄がありそうな気がしています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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